東京地方裁判所 昭和37年(ワ)578号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕一、住宅緊急措置令にもとづき、賃貸人、賃借人協力して東京都に貸屋空間届が提出された事実があつても、戦後住宅難の緩和をはかる特殊事情のもとに強制的間貸を承諾する趣旨であるから、これをもつて、その後の転貸を承諾したと推測することはできない。
二、賃貸人が転貸の事実を知りながら賃借人により賃料を受領していたというだけでは、転貸の承認乃至暗黙の承認があつたと即断することは許されず、これを肯定するには明らかに右承認の意思を推測するに足る客観的事態の存在することを必要とする。
三、賃貸人に対し一か月五、〇〇〇円の賃料を支払い、転借人から転借料一か月九、二〇〇円を収受していることは、かなりの中間利得をえているから、賃貸人に対する背信行為となる。
〔判決理由〕一、昭和二一、二年頃住宅緊急措置令にもとづき、原告の協力のもとに被告荒井貞次郎から貸屋空間届が東京都に提出された事実が認められる。しかしながら右は戦後住宅難という特殊事情の下に強制的間貸を承諾する旨の趣旨を出でず、右事実をもつてその後の転貸を原告において承諾する意嚮があつたものと推測することはできない。
二、原告は昭和二八年頃本件建物附近に居住する妹より転貸の事実を聞知し、本件家屋の裏ないし玄関附近に間借人らのものと思われる表札がかかげられ、学生や見馴れない婦人が出入していることを右寿美子を通じて知り、また実見して転貸の事実を知つたことを推認し得る。しかしながら賃貸人が転貸借の存在することを知り、またさらにそれを知りながら賃借人より賃料を領収したとの事実をもつて、直ちに転貸の承認乃至暗黙の承認を即断することは許されない。特に暗黙の承認をたやすく推測すると人のいい気の弱い賃貸人は往々にして賃借人の違法行為を不当に正当化されるおそれがあるからである。したがつてこれを肯定するには明らかに右承認の意思を推測するに足る客観的事態の存在することを必要とする。
三、被告荒井貞次郎は賃料一箇月金五、〇〇〇円に対し、本件第一建物転借人らから転貸賃料一箇月合計金九、二〇〇円を収受していることが認められ、右事実よりすれば同賃借人において中間利得をかなり得ておるものといえるから本件転貸借が背信行為とならず、賃貸借関係における信頼関係を破るものでないとする、右被告らの主張は採用できない。(裁判官柳川真佐夫)
〔説明〕要旨一の事実関係をみると、原告は昭和三四年から三六年にかけての転貸の事実を主張し、被告らも別にこれを争つていないようなので、そうすれば、貸屋空間届を提出した昭和二一、二年頃から一〇年ほどの前のことであるし、事情も変つているので、これで承諾があつたということはできないであろう。
二の点、転貸の事実を知りながら賃料を受領したということで、暗黙の承諾があつたとされる事例も、まゝあるようであるが、判示にいうように、必ずしもそう推測することは不合理をまぬかれず、その他の事情を斟酌して定めるのが至当と思われる。
三は、転貸を信義則に反せず義務違反にならない、との主張にたいする判断である。